理事長あいさつ

令和2年2月27日

「特定非営利活動法人全国足紋普及協会」の設立に当たって

理事長 稲葉 光彦
(常葉大学学事顧問・法学博士)

未曽有の被害をもたらした東日本大震災から早9年を迎え被災地の復興が図られていることが報道されている。 そうした中2500人を超える行方不明者を未だに捜索する警察や消防、海上保安庁の尽力に深く感謝すると共に ご遺族の心中を察するに思い余るものがある。

その一方、身元が判明せず遺族のもとに帰れない60人ものご遺体があることは心が痛むことである。

警察の検視や身元確認は、災害や火災による損傷のためご遺体が悲惨な状態にあり、 その活動は困難を極めたと聞く。 そうした中でご遺体の取り違えもあったとも報道されている。

身元確認が科学的方法であれば見誤ることはないのであるが、発災直後に科学的方法を待たず、関係者の証言に基づく 身体特徴、着衣などで判断をしたことによるものであろう。多数のご遺体が収容され混乱する中で„早く家族の許に"との 心情に沿わんとしたことが誤認を招いたと推察するに難くない。

ところで、身元確認の科学的方法について、元鑑識課の専門官が、指紋、DNA型、歯形の3方法について解説していた。 いずれの方法も全国民の資料が完全に存在するとは言えず、 指紋は警察が管理する犯罪歴のある方に限られる、 DNA型は通常血縁親族の存在が必要、歯形は歯科医のカルテが必須などそれぞれの照合に隘路があるという。 そして個人情報であるもののプライバシーを最も侵害しない科学的方法として「足紋」の活用を提案している。

足紋は足の裏にある皮膚文様で、 指紋と同様に万人不同、 終生不変のもので、生涯に1回、採取・保管しておけば、 災害や事故など思わぬ事態に遭遇しても身元確認には有効であるという。指紋と異なり足紋自体が活用されている分野 が皆無であることから、悪用の途がなくしかも偽造が困難であるとも説明している。国民全員に強制することはできないが、 希望者には同意を得て採取と保管を公的機関で行うべきではないかという提言に賛同するものである。

さらに考えるに、虹彩や静脈、顔など生体認証は死体では活用できないが、各機関が管理する個人識別可能な試料、 例えば指掌紋であれば入国管理局、銀行ATM認証、施設セキュリティに管理された試料が現存する。DNA型は、 医療機関や赤十字で管理されている。それらは目的に沿って厳重に管理されるため、利活用が極めて制約される ものになっていると聞く。一旦急の事態の身元確認に限っては試料の活用を可能にする法整備を平時に進めておく 必要があるのではないか。

首都直下地震や南海トラフ地震では膨大な犠牲者が予想されている。昼間の時間帯では人の流動が激しく ご遺体と被災の場所と関連付けできないし、身に着けた身分証類や身元に繋がる所持品、指輪・ピアスなどの 装身具がその場にあるとは言い難い世の中になっている。

東日本大震災や熊本地震の発災直後、被災地に出没した„火事場泥棒"の横行が懸念されるのである。 日本人の良心が失われていることを嘆いている暇はない。警察の検視・身元確認業務がご遺族の心情に応えつつ 確実にかつ速やかに行われ、被災地の治安維持と復興に警察力が効率的に注力されることを強く願うものである。

理事長ごあいさつ(PDF)

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